物語

痛みの感じる夢だった。

「それは巨大な蛸みたいなものなんだよ。自分の意思とは関係なく、一度その足に絡まれたら深い海に引きずり込まれておしまいさ」 彼が左手に挟んだマールボロの先端が赤く光った。 吐き出された煙は少しの間そこに留まっていたが、やがて形を失った。 その煙…

モノクロパンダ

それは道端に落ちているボルトやナットを思い出させた。 そこにずっと前からあるにも関わらず、気づいてもらうことを諦めているようだった。 鈍く曇った灰色の空を見上げてそう思った僕は、上半身だけを起こした。 そして、僕はあることに気づいた。 初めに…

ダルマの恩返し。

人通りの少ない細い道にダルマは立っていた。 突如、出現したダルマに地元の住民は困惑し、その珍しさから全国紙の社会欄のネタにもなったが 元からほとんど人が通らない道だったということと、ダルマというある種神聖な存在に手を出すということに恐れた人…

ムクワジュ。

僕が住む町は夜になると人気が無くなる。終電を逃すほど魅力的な場所が無いから。 東京だって眠らない街と眠る町がある。 人気のない喫煙所で煙草を吸いながらぼうっとする。 最近では色々とあるからテレビ局が自主的にそうすることが多いらしいけれど 例え…

赤。

世界はとてつもなく広いというのに、僕は同じ所をぐるぐる回っている。 すれ違う人に体がぶつかるのも慣れてしまった。今では謝るという行為は愚か、申し訳ないという気持ちすら無い。 僕は産まれたときからある施設で育てられた。だから親の顔を知らない。 …